連作短編となっていて、雪沼という(おそらく山間の)小さな町に暮らす人々のエピソードが各短篇のあいだで緩やかにつながっているというもの。まずなんといってもタイトルがいい。まさに雪沼の周辺に暮らす人々のストーリー。
読み進めるごとにじわじわといい。いろんなところでいろんな人が毎日を生きている。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。
文体は三人称で語られるのだが、人物を〇〇さんという語り口が新鮮で、いわゆる「神の視点」ではなく、町内の、近所の知り合いについて語っているような印象を受ける。
とにかく人物造形と描写が秀逸。でも「リアリティがある」というのとはなんだかちょっと違うような気がする。どこかにいそうな誰かたちなのだが、どことなく寓話的というか現実からほんの少しだけ遊離しているような感覚がふと立ち込めてくる。
大好きな片岡義男と、人物描写についてはある意味で対極にあるなあと思っていたら、実は堀江は古くからの片岡義男愛読者であることを知ってびっくり。
片岡義男×堀江敏幸×川﨑大助 ~作家デビュー40周年記念~「片岡義男と週末の午後を」vol.2「堀江敏幸が探る、片岡義男の頭のなか」『ミッキーは谷中で六時三十分』刊行記念
自分が好きなものが知らないところでつながっていたことを知るのは望外の喜び。
ストーリーを語るための人物ではなくて、人物を語るためのストーリー。他人の人生を垣間見(覗き見?)するような感じもして、なんといっても静かな語り口がしっくりとくる。「ささやかな」という言葉がぴたりとくる物語。こういう作品を読むと「短篇とはなんとおもしろいものなのだろう」とあらためて感じ入ることしきりなのである。